[47]父の記憶
私の両親は、私が小学４年生のときに離婚をしました。そして私と兄は母に引き取られました。もう父と離れてから８年が経ちました。
父との思い出は、たくさんあります。一緒にお祭に行ったこと。休日にキャッチボールをしたこと。竹馬の練習をしたこと。お風呂で英語の歌を教えてもらったこと。たくさん、たくさん思い出があります。でも、同じように嫌な思い出もあります。体をたたかれて裸で外に放り出されたこと。母を殴っている姿。兄をビンで殴っている姿。父は、私の初めて殺意を覚えた人です。
母は父と離婚をして、彼氏ができました。その母の彼氏は優しくいい人でした。動物園や海に連れて行ってもらいました。「いい人だ」と思いました。でも、そこまでだったのです。「いい人」で終わったのです。「お父さん」とは思えませんでした。何が足りなかったのでしょう、わかりません。でも母から「結婚するかも」と言われても嬉しくなく、「そうなんだ」と返事をしました。
そして私にかまってくれなくなった母がなんだか悲しくて、寂しくて…小学５年生で自傷行為を覚えてしまったのです。少し、父が恋しくなったときもありました。「お父さんがいれば遊んでくれるのかな…」と思ってみたり。
そして少しずつ少しずつ深まっていった私と母の間の溝。今、少しずつ埋めていっています。思ったことをきちんと言って。「ありがとう」「ごめんなさい」をしっかり言って……。
父の記憶は私の脳みその中に大事にしまっておきます。決して忘れはしません。ありがとう、お父さん、お母さん。
燕 弥子
