第35回■■想像力

2019年4月30日

相変わらず株式欄を開いては、塩漬け長者の我が母とともにため息の毎日。我が家の食卓はさえない。

ところで今日私が帰宅するやいなや、母は「遠近両用の眼鏡を買った」と報告してきた。最初は慣れないから階段の上り下りに気をつけないといけない、近いところから遠いところを見るときはゆっくりと視線を動かせ、などなど、眼鏡屋で言われたのであろう注意をそのまま私に教えてくれる。私が遠近両用眼鏡を必要とするのは当分先の話なのだが。

そして彼女は遠近両用を選びながら唐突に思いついたそうだ。「これからは高齢化社会=老眼=眼鏡。眼鏡メーカーの株どう思う?HOYAとか」。ピーター・リンチの著書にある、銘柄選びは「身近な企業を探せ」というのはひょっとしてこういうことなのか??その予想が当たっているかどうかは別にして、身の回りの何気ないものに彼女なりの将来性を見いだし、それなりの理由を自分でこじつけて、株式欄や四季報をブツブツ言いながら見ている姿は、なかなか競争心をかきたてられるものがある。

続いて彼女は、「ガラスもいいかもね。これからは防音ガラスとかペアガラスの窓が増えてくるから」と言ってガラスメーカーの株を見ていた。実は、ついこの前、我が家は窓を防音仕様に変えたばかり。

防音ガラスの窓が「増えてくる」って、どこで増えてるの見た!?とりあえず近所ではウチだけだろ、と心の中で突っ込みながらも、もしかしたらこういう発想って100くらいやってれば1つくらい当たるかもな、とも思うのである。必要なのは、とりあえずはこじつけでも何でもいいから想像力を働かせる、と言うことだろうか。

前々回のメルマガで、株価が軒並み下がっている中にも年初来高値をつけている銘柄、としてホーチキの名前を出したところ、「新宿ビル火災の影響でしょう」と読者の方からメールをいただいた。

私はつくづく自分の鈍さを感じた。「ホーチキ」と言う字が目に入っても何も思い浮かばなかったのだ。メールをいただいて初めて、そうかビル火災か、と納得した次第。ビル火災というニュースと火災で想起されるもの、この二つの点を一本の線で結べないのは応用力がないマークシート世代だからだ・・・というのは単なる言い訳だが、それにしても自分の想像力の乏しさに真剣に危機感を抱いた。

そういえばニューヨークのテロ事件で新宿ビル火災の扱いはすっかり遠い昔のことのようになってしまった。なんだか最近、自分以外の周りのものが加速して流れていくように世の中の流れが速い。時間が経つのも早い。2001年も始まったばかり、と思っていたのに、もうじき4分の3が終わる。年初の損切りで発生した赤字も、そのうちカバーできると思いつつ依然そのままである。

2001.09.21
◆CANE