外食産業はその労働力の多くをパートアルバイトに頼っている。これは日本に限らずアメリカなどでもいえること。米国ファーストフードでは高校生の労働力の依存度が高く、高校生がいなかったら産業自体成立しないとまでいわれるほど。日本では陳腐な校則のせいで、高校生の場合ほとんど学校でアルバイト禁止になっているが、そういう事情でありながらも隠れてたくましくバイトに精を出すのが高校生なのだ。
デニーズやすかいらーくなどファミレスの場合は社員4人に対しアルバイトは延べにすると30~50人くらいいる。繁盛店では100人を越す店もあるだろう。もっとも本当に戦力になるのはそのなかの1割にも満たない。
教育とは時間と金がかかるもの。特に仕事の上で教育をするならそのための時間は拘束しなければならず、拘束時間=人件費だからなおさら。しかし、これからの厳しい時世を生きてゆくには人材養成は不可欠。したがって教育の問題は避けて通れないものと肝に命じるべきなのだが、実態は首をかしげることばかり。
デニーズ内ではよく「躾(しつけ)」という言葉を耳にする。しかし「躾」と「教育」は根本的に違うもの。躾はその人の持っている素質と申しましょうかプライベートな能力部分であって、簡単に言えば「躾ができている」ということは「行儀が良い」ということだ。では、ファミレスにおける教育とはなんぞや?教育とは素質に関係なく、後天的に「行儀が良い」即ち従業員として高いレベルを保つためになされる社内的な訓練ということができる。
各人の「躾」には関知しないのが望ましい。なぜなら「躾」その人の人格であり、それについてとやかくいうのは大きなお世話だからだ。要は躾の悪い人でも「教育」によって使えるレベルまで上げることが必要。仕事ができるのは「教育」ができているのであって「躾」られてるのではないことを認識する必要がある。この認識を誤ると個人の人格を無視することになり、貴重な人材を失うことになるので注意を要する。しかしながら、採用する場合はそういう「躾」ができている人の方が良いのは言うまでもないところだが、そういう人はザラにはいないのが現状。
しかしデニーズは「隣のココス、向こうのロイホ」に勝たなければならない。同じ食材を使い回ししている「隣のココス」にどうしたら勝てるのか?もうこれは従業員一人一人のレベルアップしかない。まさに永遠の課題といえると思う。
さて、新メニューの導入が決りました。デニーズでは年に4回大きくメニューが変わります。さぁ、この大事な時期にどういう教育がされるのでしょうか?初日が肝心です。汚い料理は不可です。間違った調理方法も不可です。もちろん15分チェック(提供時間が15分以上になってしまうこと)は出してはなりません。
しかし、用意されたのは2本のビデオと一冊のクックスタンダード。それを各自見ておくようにという指示があるだけ。試食会も開催さるが任意参加。これでは各自の習熟度がバラバラで、初日に混乱しない方が不思議というもの。新メニューを甘く見ているというのが実感です。メニュー開発した商品部の人がじつに可哀想。
ビデオを用意したのなら、休憩時間に任意に見るのではなく、仕事時間中に強制的に「仕事として」見せるべきであり、またクックスタンダードも自分でサブノートを作らせるなど新メニュー開始前までに十分に頭にたたき込ませる必要がある。これらは大事な仕事なのだから当然勤務時間中に行なう必要がある。
試食会は「楽しい食事会」ではなくこれから3ヶ月にわたる重要な「メシの種」なのだから全員参加を義務づけて当たり前。もちろんそれに伴う交通費は支給、その時間は有給扱いにする。以上のようにちゃんと給料は払うから、みんなきちんと憶えてくれ、という会社側の熱意があれば人は頑張るのだ。
現実問題として、ほとんどのパートアルバイトは昼間は別の職や学業があり夜は寝る時間を削って就業しているものにとって、無給の奉仕はしたくてもできるものではない。冒頭に申し上げた通り教育には金がかかるという事、しかしそれは必ず戦力となって返ってくることを認識しなくては。「隣のココス、向こうのロイホ」に勝つために。
なお休憩中に強制的に教育ビデオを見せることや勉強させることは労働基準法の解釈上好ましくないことをご存知だろうか。休憩時間はその趣旨の通り「休憩」しなければならないからです。もちろん任意にビデオや勉強することは差し支えない。
2001/09/30