なりを潜めていたO157による食中毒が発生したようだ。死者は6人。給食による食中毒事故だという。O157は強力な毒素を出すので、中毒は死に至るほど危険。しかし予防は意外と簡単である。十分に加熱する、生食する場合はよく洗う、これでほとんど防げるはず。にもかかわらず中毒事故があるのは人による管理がずさんだから。つまり人災ですな。

以前O157が騒がれた時、デニーズでは原因だと疑問視された「かいわれ大根」を食材として使っていなかったので、店の連中はほっとしていた。きっと本部の人間もほっとしていただろう。しかし、かいわれ大根を使っていなかったのは偶然であり、飲食業に携わるものとしてはいつでも食中毒に備えて対処していなければならない。

食中毒というのは、腐ったものを食べて発生するのではない。だから、匂いをかいでもだめ。新鮮な、それこそ生きているような刺身を食べても、そこに食中毒菌が発病可能な量が着いていれば食中毒は起こる。目で見てもわからないのだ。したがって常日頃の管理がものをいう。日常の管理とは菌をつけない、増やさない、殺してしまう、の3原則。飲食店にとってこの3原則は、社是よりも守らねばならないことである。

ケンタッキーフライドチキンでは生のチキンを扱うので、常にサルモネラ菌と対峙している。サルモネラ菌は熱に弱いから油で揚げてしまえば何ら心配はない。しかし、生のチキンを触った手でサラダを扱えば、たちまち汚染されてしまう。そのためケンタッキーではサラダを扱うところとチキンを揚げるところは別々になっていて、そのまますっと行けないようになっている。キッチンからサラダ場に行くときは、エプロンをはずす、サラダ場に入る前に手を洗う、手を洗ったら更に塩素水に手を浸すなど、徹底した管理を行なっている。誰が行なっても食中毒が起こりにくいオペレーションをマニュアル化しているケンタッキーは合格だ。

デニーズはどうか?さすが老舗だけのことはある。食中毒に対しては過敏ともいえるくらいのマニュアルを作っている。それだけ食中毒に手痛い目にあった経験があるのだろう。

まず、当たり前だが使い捨てのビニール手袋が用意されている。キッチンの入るとき手に傷があったり、手荒れがある場合は手袋装着が必須。これだけで黄色ブドウ球菌の汚染がかなり防げる。キッチンに入る前は手を洗う。これはどこでも当たり前。入ったら、アルコールのスプレーが用意されているのでそれを吹つけて念を入れる。

キッチンで使っているダスターはアルコール漬けになっていてそれを絞って使う。よごれたら代りのダスターを使う。汚れても水ですすがない。すすぐとアルコールが抜けてしまうからだ。しかし現実にはすすいで使う。でないとアルコール漬けのダスターがいくらあっても足りないのである。

ダンボールを触ったりゴミを拾ったらその都度手を洗う。したがって調理に専念している時は、食材の納品作業はしないし床のゴミも拾わない。これは正しいことなのだ。ピーク時に冷蔵庫に行かなくてもいいように手待ち時間にドロワー(引き出し式冷蔵庫)を満タンにしておく。厳密にいったら冷蔵庫のドアを触っただけでも手洗いが必要。

また従業員用のトイレは客用と別になっている。手洗い用のソープは客用と同じだが、別に殺菌灯がついている。殺菌灯はトイレの錠と連動になっているから、ちゃんと手を消毒しないとトイレから出られない。このときに停電になるとトイレに閉じ込められることになる。が心配は要らない。乾電池で動く呼び鈴がちゃんと装備されている。

レストランによっては客用と従業員用を共用していることがあるが、これはとても危険である。従業員は定期的に検便をし、健康管理に気をつけているが客はそうではない。客のなかには不潔な客もいるだろうし、保菌者もいるかもしれない。従業員用と客用を分けるのはファミレスとして当然なのだ。

よく冷蔵庫を開けると、従業員の弁当やおやつ用のケーキ、つめたい麦茶などを見ることがある。夏場はありがたいのだが、デニーズでは食材用冷蔵庫の私用は禁止。ついでに弁当を始め缶ジュースなどの食品は一切持ち込み禁止。従業員は食事はメニューから選ばなければならない。じつはこのことに関してはやりすぎだと本部に抗議したことがある。が、食中毒を防ぐ観点からは納得できる処置である。

さて従業員の立場あるいは客の立場からファミレスを見てどうであろうか?キッチンで手袋もせず包帯をして働いている人を見たことがないだろうか?トイレを待っていたら、従業員が用を済まして出てきたということはないだろうか?キッチンで調理している人がそのまま料理を運んできていないだろうか?従業員共用のトイレなのに、いつ行っても手洗いのソープが空っぽだったりしていないだろうか?ソープがいつも空っぽなのは従業員がソープを使って手を洗っていない証拠である。きたねー。

上記のような光景が一つでも見られたら、命惜しくば、その店には行かないほうがいい。食中毒がいつ起こってもおかしくないからだ。

2002/08/18

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